04112015

写真家 長島有里枝さんの写真集「5 Comes After 6」がとても素敵でした。
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素晴らしい芸術家は、人生のすべてを制作に注ぐという。
写真家なら、重たい機材を伴って、(物理的にも精神的にも)人知を超えた遠くへ出かける。
シャッターチャンスを逃さない、獣のような集中力。
完璧なライティングと構図を生み出す忍耐力。
客観主義と実証主義に裏付けられた知性。

わたしの12年はそんなじゃなかった。
2時間に1回、おっぱいをあげる日々。
オムツ替えと食事の支度、つくり笑いとから元気のローテーション。
極限まで減らされた睡眠時間、孤軍奮闘。
それは俺の仕事じゃない、と言った夫とは、
別れてしまった。

赤ちゃんはどこにでもついてきた。
出かけるときは、自分一人でも彼を守れそうな場所を選んだ。
休暇は必ず、彼の大好きな鉄道を見て過ごした。
眠気でぼんやりしたまま、一人で歩きたい幼児を、小走りで追いかけた。
疲れ果て、イライラして、よく不機嫌になった。

結局、できることしかできないのだ、ということを、わたしは少しずつ学んだ。
軽くてピントの合いやすいカメラで撮った、家のなかと鉄道の写真。
障害物のむこうの風景。
愛しい存在。
鏡のなかの、たぶん、平穏な世界。

この夏、鉄道クラブの二日間の合宿と、
三週間のヨーロッパ滞在を天秤にかけた少年は、
初めてわたしについてこなかった。

なにかが変わろうとしている。

 

5 Comes After 6」_Yurie Nagashima